白い睫毛
それから私たちは話をした。
会社の愚痴は彼には言わなかった。
そういう話はしたくなかった。
ただ、
昨日の筑前煮が美味しかったとか、
おでんの具にソーセージはおかしいだとか、風呂に柚子を入れたら痒くなったとか、
バレンタインにもらえるチョコレートの数が少なくなったとか、
思いきり充実した日の眠りに落ちる瞬間、あれに勝る幸せはないとか、
どっちが息を長く吐けるとか、
どっちの方が白いかとか、
そんな話ばかりしていた。
小学生のような会話だった。
時々彼の白(あるいは透明)の睫毛が街灯、月の光、星の光、
そんなものに反射してきらきら光った。
彼の睫毛には幸せとか希望とか夢とかそんな人間が大好きなものがいっぱい詰まっているような気がした。
彼が笑う。
睫毛が伏せられ、ちいさく震える。
それに返事をするように星が瞬く。
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