春 ⁑01
目覚ましが鳴るより早く起きた。
ゆっくりお風呂に入って、念入りに身体を磨く。
手の甲を磨こうと久しぶりにボディスクラブを使ったら皮膚が捲れて血が出た。
何やってんだ。
「一足先に春を届けに来ました」
とばかりの、白のニットに淡いピンクのチュールスカート、グレーのタイツに7センチヒールのブーツ、コートはパープルとスカイブルーの間の色。
今日が寒い日で良かった。
だってトレンチなんか着たら没個性だ。
周りと一緒で差別化できない。埋もれてしまう。
だから、「春を届けにきました」なんて頭が花畑な服装をして逢いに行きたかった。
10:30 美容院
「自分でセットした感じでお願いします」
なんてすっとんきょうなことを言ってセットをしてもらう。
「結婚式ですか?」
「世界で一番逢いたい人に逢いに行きます」
なんて言わずに、
「食事会です」
と常識人を気取るために嘘をつく。
「何人でですか?」
「6人です」
私に5人も一緒に食事する友達はいない。
自分で言ってておかしい。
でも、惨めな気はしない。
6人の食事会に行く私は髪型、服装に似合わず自転車を爆速させる。滑稽。
11:30 百貨店の化粧品売り場
また「食事会なんです」と言って化粧をしてもらう。
髪型は美容院でセットしたと言うのがなんだか恥ずかしくて、「妹にしてもらいました」
とここでも常識人になるために嘘をつく。
下地からファンデから、見たことのない筆で塗られるハイライトまで。
フルメイク装備をプロにしてもらって、おまけに「口紅の色派手じゃないですか?」なんて何様だよ発言をして化粧品を買う。
10,600円。
やっぱり装備品は高い。
だけど、防御力は上がった。
恥ずかしい自分を少しでも隠す分厚く綺麗な装備。
こうでもしないと真っ直ぐに目を見れない。
12:30 書店
時間を潰すにはやっぱり本屋が一番だ。
でも、今日は防御力を上げたこともあって、いつもは近づかない書店内の展示会へ向かった。
一癖二癖あるリングやパールのイヤリング、どうつけるのか検討がつかないアクセサリー。
誰も寄って行く人がいないとこに寄っていって、話をふむふむと聞いてみる。
その中で、指にはめると〈LOVE〉と指に跡がつく指輪を見つけた。
「これはペアリングなんですか?」
「ペアではないですよ。一人でつけたらいいんです。ペアにしたければペアリングにすればいいんです」
何だか分からないけれど、何か許された気がした。
一番安いもので40,000円したので、自分の人生の転機にお守りのために購入しようと決めた。
もちろん一人でつける。
ペアリングにしたくなったら、すればいい。
13:30 会場
割愛する。
ただ、自分の心臓の音を久しぶりに聞いた。
もう死んでいたものとばかり思っていた。
14:00 スターバックス
テラス席に一人座り、ほうじ茶ラテを飲み先ほどの出来事を反芻する。
もうすでに夢だった気さえする。
風が冷たくなってきた。
ほうじ茶ラテを飲むたび今日のことを思い出せるよう舌と脳に刷り込む。
15:00 友人と合流
「とりあえずお腹が空いた」
という友人の言葉を聞いてパンケーキを食べに行く。
朝ごはんも昼ごはんも食べたらしい。
ちなみに私はファスティング後で胃は空っぽだ。
パンケーキとハンバーガーを頼んだ。
私はそんなに食べられなかった。
キャラメリゼされたバナナが美味しかった。
ハンバーガーの付け合わせのポテトは全部食べる前に「ここはファミレスじゃないんですよ」と言いたげな店員に下げられた。
18時にもつ鍋を食べようと相談し、それに合わせて行動する。
とりあえずパンケーキとハンバーガーを消化しようとウィンドーショッピングという名の徘徊をした。
店を回って回って、丈が短いとか身長が足りないとかどこも同じものを置いているとかそんな品のカケラもないことを言って回る。
18:00時になったが、ロフトで将棋の駒の形をしたべっこう飴を買ったりしていたので、もつ鍋屋についたのは18:30になっていた。
店は混んでいて、店の外で立ったまま1時間近く待った。
店に入ってからは、酔った勢いで今日のイベントがどんなに素晴らしかったかベラベラ話した。
友人は笑って聞いて、「楽しそうだね、羨ましい」と言った。
帰り、電車に乗る前にいつも親と買い物帰りに飲んでいたミックスジュースを飲んだ。
最後に飲んだのはもう5年以上も前で、さすがに値上がりしていたけど、味も舌触りもそのままでたまらなく懐かしくなった。
友人も親と百貨店に来た帰りはいつも飲んでいたらしくて、昔からの幼馴染みたいに思えてなんだか嬉しかった。
帰り、DVDを貸してあげると言い、家の前で友人を待たせ10分ほど話した。
DVDのパッケージを見せて誰のどこがいいとか、街灯の灯の下でそんな話をしていた。
帰って家族に「もつ鍋臭い」と言われそのままその日の服を全部洗濯機に突っ込んでお風呂に入った。
洗濯機の中が使い終わった春色になった。
私は何歳なんだろう。
お年玉をもらってちょっとお金に余裕がある小学生が調子に乗ったような1日だった。
こんな幸せな日はもう二度とないんじゃないか、と思うほど幸せで満たされた1日だった。
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